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1.1 コストとは何か
よくコスト高いとか、コストがかかるなどといわれています。一般にコストは、「原価」とか「費用」と訳されていますが、その物(製品や材料)やサービスなどにかかる金銭的な費用を表しています。これに付加価値や利益を付加することでお客さまに提供することになります。一般に販売価格は提供する側(売り手)の価格のことですが、お客さま(買い手)が購入する価格が実際の販売価格となります。売り手が販売価格を決めるのではなく、買い手が価格を決めるという考え方をしています。
1.2 コストは手間賃から
コストは始まりは、手間賃(賃金)からではないかとと思っています。例えば、河原に転がる石や山に埋もれている石(鉱石などそのままではただの石ですが、価値のありそうな石を拾って、売りたい場合、これに手間賃をプラスして最低の金銭的価値をつけます。さらに運搬費用や売るための費用を追加して、売り手の売り値が決められます。ただ、買い手が何の価値もないとなれば、売れません。買い手が非常に珍しいと価値を見出せば、売り手の価格より高く売ることがも出来ます。売り手は、コストですが、買い手は、付加価値というわけです。この例のようにコストの始まりは、すべて手間賃(賃金)からであると考えています。
1.3 製造コストは全社の手間賃
製品の製造にかかる費用は、工場だけの費用ではなく、本社部門、設計開発部門などを含むすべての部門のコストを意味していることを考えなければなりません。したがって、コスト削減は、全社的な問題であり、全社的な視点から取り組む課題であるということになります。ここでは、監督者の立場からしか述べていませんが、このことをよく理解しておいてください。
1.4 多品種生産工場の原価の算出
ここでは、多品種の製品や部品を繰り返して生産する工場を想定しています。1個のみとか数個しか生産しない製品(例えば、お客さまの仕様にもとづく試作品、特注品など)は、範囲外としています。コストの算出方法が多岐にわたるためです。コストの計算方法など基本的な考え方は変わりありません。
2.原価(コスト)の構成
先ず、一般的なものづくりのコストの中身を知っておきたいものです。コストは、いろいろな費用から成っています。製品や部品を職場で生産する場合、必ず費用(コスト、原価ともいう)がかかります。その中身は次のように区分されています。
2.1 材料費
製品の生産に必要な材料に関する費用(材料費という)のことです。製品に直接使われる材料(直接材ともいう)と製品をつくるために必要な材料(間接材ともいう)があります。直接材や間接材の区分は、製品によってことなります。
いろいろな材料は購入先に支払う費用ですから、できるだけその金額を節約することは当然です。なお、材料費は、原価計算上いくつかに分類されますが、その内容は各企業で定める必要があります。一般に「原価計算規則」のような規定を設けて、全社的な統一された基準が必要です。以下述べている材料区分や消耗品などの区分は、一例ですので自分の企業に置き換えて読んでください。
(1)直接材料費
直接材料とは、製品の本体に使われる材料のことをいいます。製品には、いろいろな材料が使われています。例えば、鋼板、アルミ、銅、樹脂、ゴムなどです。これらは、素材とも呼ばれていますが、これを加工したものが製品や部品になります。また、外部から購入される部品や外注した加工品などは原価計算上「購入部品費」と呼ぶこともあります。
(2)間接材料費
この材料は、直接製品に組み込まれない材料で、製品をつくるために必要な材料のことです。次のような区分があります。
@補助材料
製品の生産に関して、補助的に使用される物品です。例えば、機械油、修理用材、研磨材、溶接に使う酸素、CO2など
A消耗工具、器具、備品
製品をつくるために用いる工具や備品などで耐用年数が1年未満、又は一定金額未満のものを指します。例えば、ヤスリ、ドリル、スパナ、運搬具、容器、はかり、備品などです。
B消耗品
上記に含まれない品目で、例えば、機械油、砥石、軍手、作業着、帽子、掃除用品、事務用品、ボロ、ウエス、サンドペーパーなど。
2.2 労務費
企業が従業員に支払う賃金(各種の保険料や福利厚生費用なども含まれる)を原価計算上では労務費として扱われます。この労務費も計算上いくつかに分類されています。
(1)直接労務費
製品をつくる作業者(直接作業者、直接工ともいう)に支払う賃金は、直接労務費と呼ばれます。多品種の生産工場では、製品毎の所要時間(工数という)の実績に応じて、労務費の配分を行います。配分方法は企業で定めますが、通常は製品にかかった工数で行わています。
ここで、監督者のために一例を述べておきます。労務費コスト配分として、よく使用されるのは賃率(1時間当たりの平均賃金)の方法です。
賃率=一定期間の労務費総額/一定期間の作業総工数
なお、作業時間は、直接時間で計算するのが一般的です。手待ち時間などは含めないようにしています。一定期間とは、1ヵ月、半期(6ヶ月)、1年間のことです。ある程度、規模が大きくなると、機械加工部門、組立部門のように部門別に算出して、コスト管理を行なうようにしています。
<計算例>
ある工場で賃率が4、500円/時間である場合
A製品=工数12時間×賃率4、500=54、500円
B製品= 9.5時間× 4、500=42、750円
C製品= 8.5時間× 4,500=38、250円
職場の監督者は、部下の作業工数と賃率が分かれば、その製品のコストを計算することができます。上記の計算からわかるように、賃率が上がっていくとコストも高くなりますから、作業の工数を管理して少しでも作業改善を行い工数の低減に努力していくことが求まられます。この工数の低減を生産性の向上と呼ぶことがあります。
なお、生産性の向上にはいろいろな手段がありますから、別項で述べてあります。参照してください。
(2)間接労務費
工場の材料や部品などの運搬作業者、設備保全作業者、監督者などの直接工(製品を作る作業者)以外の従業員に支払う賃金を間接労務費として計上します。なお、賞与(一時金)、休業手当、なども直接労務費と同様に間接労務費に含めるのが一般的です。間接労務費をどのようにして製品に配分(配賦ともいう)するかについては後述してあります。
なお、直接作業者の作業の間接時間記録を行っている場合は、間接時間の労務費を間接労務費扱いにすることもあります。これは、部品を運んだり、治具の補修を行ったりした場合です。不良品の手直しを行う場合は直接時間と考えます。
3.経費
材料費や労務費以外の費用については、一般的に経費として取り扱います。
3.1 直接経費
外注加工費は、材料や部品を外注先に支給して、工程の一部を加工する場合で、機械加工、熱処理、表面処理などがあります。材料を支給しない場合は、購入部品費扱いとすることがあります。このような区分は、企業で決める必要があります。同様に、製作費用の高い金型の場合も経費扱いや償却費扱いなどいろいろなケースがあります。また、設計料、調査料、特許料などが、発生する場合は、企業で定める規則にしたがって経費処理を行います。
3.2 間接経費
間接経費として計上される費用には、減価償却費、電力料金、修繕費用、旅費交通費、各種保険料、水道光熱費、棚卸減耗費、雑費などがあります。
3.3 工場管理費
生産工場の事務部門(総務課、人事課、経理課など)や技術部門(技術課、工務課、検査課など)の費用は、間接経費扱いとします。
3.4 一般管理費及び販売費
本社部門(企業全体を管理する部門(設計部門、購買部門、営業部門など)は一般管理費と考えます。販売を担当する部門を販売費と区分しています。また、これらの経費を本社費と呼ぶこともあります。
このような経費の区分は、企業の業務内容などによりさまざまな形態がありますから、法規にしたがって企業で決めることになります。
4.製造原価の内容
ものづくりのコストである製造原価の内容をを整理しておきます。今まで述べてきたいろいろな費用を集計して、製造原価としてまとめたものです。監督者にも必要な基本的な内容ですので、理解しておいてください。
4.1 製造原価の構成
製造原価を整理すると、次のような図になります。この原価構成は、よく使われている図です。
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今まで延べてきたように、職場の監督者として、現場で作っている製品に費用がいくらかかっているかをよく知ることが大切です。これを「原価意識を持つ」といいます。
2.2 固定費と変動費
職場で発生する費用は、生産する製品の数量に比例して発生する費用(変動費といいます)と、生産数量に関係なく発生する費用(固定費といいます)とに分類されます。現場で働く作業者は、生産数量に応じて工数がかかりますからその労務費は変動費です。職場の電気代の中で屋内照明は生産数量に関係ありませんから固定費です。職場の機械やコンベヤーのモーターの電気代は生産量に比例しますから変動費となります。機械や治具などは生産量に関係なく減価償却費がかかりますから固定費となります。このようにいろいろな費用を変動費と固定に分類して原価を区分する方法があります。
固定費と変動費をグラフに表わすと図のようになります。これは、よく使われる図です。売り上げ高と総費用(総経費ともいう。これは固定費+変動費をいいます)の交点が損益分岐点と呼ばれるものです。この時の生産数量が損益分岐点数量となります。この生産量以下では損失になり、生産量が増えると利益が出ることを意味しています。この損益分岐点を下げることが原価引き下げの目的といえます。
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このような図は、現場では使われませんが、一応予備知識として知っておいてください。職場のいろいろな改善は、この変動費を下げる効果があります。
5.製造にかかる費用の算出
現場では直接に製造原価を計算することはできないので、いろいろな原単位を算出して、その原単位を代用(代用特性ともいいます)して管理していきます。
5.1 1個当たりの生産時間
現場の監督者として、必ず把握していなければならない数値は、生産する部品や組立品にかかる工数(作業時間)です。一般的に1個当たり工数とか、1基当たり工数などその企業の呼び名があります。ここでは、1台当たりを台当たり工数と呼ぶことにします。製品の工数計算式は
台当たり工数=直接時間(時間)/生産数量(台)
で計算します。これを算出するためには、作業記録を行わなければなりません。「作業に関する項目」で説明した作業日報を再掲します。
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このような帳票を作成して、毎日の生産状況の記録を行います。このような伝票類から原価計算に必要なデータを集計します。
<原価計算集計項目>
・製品別生産実績
・製品別作業工数(台当たり工数)
・間接時間
・その他
このような作業日報からデータの集計を行い、原価計算が行われます。作業状況について、定められた通りに、正しく、正確に記録することが原価の正確度を上げるために必要です。
5.2 直接時間の配分
多品種の製品を混流で生産するような場合、その製品毎の直接時間(工数)の把握は難しくなります。ロット生産ならば、作業開始と終了時間から工数計算は容易です。したがって、多品種生産ラインの場合、その時間の配分をどうするかを考えなければなりません。一般的には、標準時間配分が行なわれています。その他には、製品の大きさ、重さ、過去の実際工数などを参考にします。
ある工場の生産ラインで1日の実働時間8時間、直接時間生産時間430分の時、直接時間の配分は次のようになります。
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上記のように、出来高時間×配分率0.94で計算して、直接時間を算出します。なお、参考に製品Aの個当たり時間は
直接時間263.20分/生産数70個=3.76分/個
となります。
このラインは、3品種とも合計した能率や直接率ですから、他の能率による配分でも結果は同じになります。
Aの標準時間÷能率=4.00÷1.064=3.76分/個
もし、標準時間の設定がない場合、品種毎に直接時間を記録するか、品種の重量、大きさ(投影面積)などを使って配分することもあります。
<研究課題>
母親が小学生の子供3人に1万円のお小遣いを分配する場合、どのような配分方法が考えられますか?5つ以上の方法を考えてください。その配分の計算も行ってみてください。
5.3 材料費の算出
材料費の算出に当たっては、どの製品にどの材料をいくら消費したかを把握します。一般的には、出庫票、作業票のような伝票を使い記録していきます。
なお、出庫票の引当(ひきあて)とは、どの製品や加工品に使うかを明確にするためです。同じ材料でも引当が異なる場合には、記載欄を別にする必要があります。
次に、製品1個当たりの材料使用量を算出して材料費を計算することになります。
1個当たり材料使用量=材料使用量/生産数量
この使用量に材料単価をかければ材料費が算出できます。なお、重要なことは、どの材料をどの製品にいくら使ったかを明確にしなければなりません。これは、実際にはなかなか面倒なことです。監督者は出庫手続きを確認することや使用残量があれば返庫することなど指導しなければなりません。
5.4 直接材料費の配分
直接材料は、特定の製品に使用する場合は計算は容易ですが、共通して使用する材料は、生産数量による比例配分などを行います。金額の高い材料は除き、低額の材料は計算が面倒なので、按分方式をとります。按分は、生産数量や重量比例が一般的です。金額の高い材料は、できるだけ充当する製品を明確にするように努力していきます。
5.5 間接材料等の配分
製品共通で使用する間接材料等は、例えば、生産数量比例や製品工数比例などでそれぞれの製品の材料費として配分します。配賦方法には、いろいろな考え方ができるので、合理的な配分方法を決める必要があります。社内規定で決めておきます。
5.6 間接経費等の配分基準例
間接経費の配賦例を示します
・建屋の減価償却費や冷暖房費:製品の使用面積
・動力費:機械台数、工具使用数
・通信費、旅費交通費:作業員数、生産数量
・消耗品費、事務用品費:作業員数、生産数量
6.実際原価と予定原価
製品にいくらコストがかかっているかを実際に計算していくのは、実際原価計算と呼ばれています。これにより算出された原価が実際原価となります。一方、将来の企業経営において、生産販売計画と共に、製造原価を設定(予定原価という)して利益や売り上げ高の予測を行います。中長期の経営計画には欠かせない必須の数値ですから、なるべく精度の高い予定製造原価を作成します。これを予定原価又は標準原価と呼んでいます。
6.1 標準原価の設定
予定原価や標準原価(以下標準原価という)の設定は、標準作業の設定と同じような考え方になります。また、直接材料や直接労務費は、理論的な計算値や実際原価で把握された工数などを基準として算出されます。
6.2 標準材料費
設計図面に記載されている材料重量を基準として算出されます。もし、記載ない場合は、理論的な計算をして材料重量を算出します。それに材料の歩留まり率、損耗率、不良品率などを参考にして合理的な材料費を算定します。すなわち、設計計算値+余裕率重量ということになります。材料価格は、半年から1年先の経済状況等を加味して予定購入価格を設定します。個の価格変動が大きいと標準原価と実際原価のかい離が大きくなってきます。
6.3 標準直接労務費
この費用は、作業時間と賃金が大きな設定項目ですから、その採用する数値には十分に検討します。作業時間の標準値の設定は、標準時間を適用することになります。標準時間の設定かされていない場合には、過去の実績などからの類推、理論作業時間設定、監督者の経験値などから設定します。
賃金については、現在の賃金を基準に将来の賃上げを分付加して標準賃金を設定します。実際の賃上げが大きいと標準原価の設定が低いことになるので、注意が必要です。この標準労務費の設定にあたって、不良品の手直し工数や割り増し生産による工数を付加するかは、企業の原価計算の考え方によるので、企業で規定しておきます。
6.4 標準直接経費
この経費は、実際原価の実績を採用するか、理論的な使用量を計算するなどして、経費毎に標準数値を算出します。例えば、外注メッキ費は1Kg当たり○○円、機械加工は加工時間当たり○○円という標準設定価格に製品の原単位(重量や大きさなど)を使って経費を算定します。
6.5 標準製造間接費
この経費は、一般的に企業の予算数値を適用することが多いようです。この場合、工場の部門ごとの年度予算数値を一定の配分基準で製品毎に賦課していきます。賦課基準は製品毎の生産数量や直接作業時間などで配分します。
6.6 原価差異分析
この分析は、実際原価と標準原価との原価差異が生じた場合は、その要因を分析をして、その責任部署や差異の理由を明確にして、原価の低減を図ることが狙いです。監督者は、自分の職場の原価(代用特性として、作業工数や間接材料の消費実績など)差異について、確認を求められたらその回答ができるように、日常の作業の変化を把握しておきたいものです。差異分析は、数量的な部分と価格的な部分に分類できますから両面から検討します。
7.加工費による製造原価計算
労務費や製造間接費を製品に配分する方法の一つとして、「加工費」による配賦が使われています。加工費による製造原価は、次の式で示されます。
製造原価=材料費+加工費
但し、加工費は作業工数×加工費率
7.1 組立工場の加工費率の算出
加工費率は次の計算式で計算します。
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<注記>
総直接時間=作業者数×実慟時間×直接率×日数
ここで、日数とは、半期又は1年を計算期間とします。また、総直接時間のほか、総実働時間とすることもあります。なお、加工費率は、加工レシオや労務レシオなどと呼ばれることもあります。
7.2 加工費による製造原価の計算
加工費率の算出は、部課単位や工場単位で算出することが一般的です。この加工費率を使って、新規製品の見積もり原価計算などが容易になります。
<計算例>
ある組立製品の製造原価は、材料費+加工費ですから
@材料費
購入部品費=3,500円
使用材料7.5Kg×100円/Kg=750円
A加工費=作業工数1.5時間×加工費率4、500円
=6、750円
B製造原価=4、250円+6、750円
=11、000円/個
7.3 機械加工工場の加工費率の算出
機械加工工場の加工費率は、次の式で算出されます。
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<注記>
機械稼働時間=一定期間の製品加工時間
<計算例>
ある機械加工工場の加工部品の製造原価は、
製造原価=材料費+加工費ですから
@材料費=使用材料4.5kg×150円/kg=675円
A加工費=機械加工時間0.5時間×加工費率6、500円
=3、250円
B製造原価=675円+3、250円=3、925円
ところで、機械加工費率6,500円とは、加工時に使用する機械を1時間使うと、6、500円かかるということを意味します。
この機械加工費の算出は、機械別、ライン別のような区分をして算出しますが、製品加工工程や使用する機械の内容によって、いろいろな算出計算ができますから、通常は企業が「原価計算システム」として規則を定めることが必要になります。監督者としては、担当部署から加工費に関する内容を確かめてください。
8.原価低減活動
製品の製造原価を下げると、そのまま利益の増加になりますから、どんな企業でも原価低減は行なわなくてはなりません。監督者も自ら職場のコスト削減に取り組んでいくことが望まれます。なお、ここで述べている内容は、作業や品質に関する項目でも説明してありますので、重複している部分もあります。
8.1 コスト低減とは
コスト低減は、経営的には企業の利益を増やすことになります。職場的には、製品をつくる費用を減らすこと、ムダを減らすことなどを意味します。具体的には、製造原価の大半を占める材料を節減すること、作業の工数を低減していくこと、不良品を無くすることなど職場でできるいろいろな知恵を出して、改善を図ることです。
8.2 作業工数低減
作業の工数削減には、いろいろな取り組み方法があります。その考え方や内容を述べておきます。
(1)作業の改善
製品をつくる作業にはいろいろな作業が組み合わさっています。その一つ一つの作業を改善することによって、作業時間を短縮していきます。これが作業改善による工数低減です。例えば作業改善の狙うポイントは
@材料や部品などを探す
A部品と取り違える、間違う
B材料や部品を運ぶ
C作業時の歩行
D工具を探す、持ってくる
E作業ミスが起きる、不良品をつくる
F作業をやり直す
G材料や部品の手待ち
H設備や機械の故障による作業停止
Iその他作業のムダなど
(2)作業動作の分析と改善
作業動作の改善とは一つの作業について、作業者の動きを細かく分析して、その動作の改善を図ることです。作業者の身体(頭、胴体、手、足)の動きを時間測定してその時間をどうすれば短縮できるかを検討していきます。この場合、作業者から作業のやりにくさ、困っていることなど聞くことも重要なことです。作業者の身体でその動きで時間のかかるのは、胴体、足、頭、手の順です。したがって、先ず胴体を動かす作業を減らすことも目のつけどころになります。
(3)工程の変更による改善
作業工程の順序変更(例えば、ラインバランス)、作業の組み合わせ、組み付け順序の変更、レイアウトの変更などによって、今までとは大きく違った作業の改善を行うことができます。部品の荷姿、容器の変更も作業の時間短縮につながります。
(4)ネック工程の改善
ものづくりは、すべての工程が川の流れのように一定のスピードで流れていくことです。ところが実際には、あちこちで停滞が起こります。一般にいうネック工程ができるからです。これは、すべての工程の作業を同じ時間にすることは不可能ですから、必ずアンバランスが発生します。一番時間のかかる工程がネック工程となります。その他、作業者の熟練度違い、作業の困難度などで、作業工程の実際の時間が変わってきます。これを改善するのは監督者の仕事になります。
8.3 不良品の低減
不良品を減らす課題には、どの企業も最優先で取り組んでいます。不良品が発生することは、すなわち、企業の損失の発生につながっているからです。
(1)不良と不良品
ここでは不良品とは、材料の加工品や部品(又は組立品)が不合格になったものを指します。不良とは、作業の未熟や未作業(忘れ)、欠品、部品違いなどによる作業途中(未完成の状態)の不具合を指します。場合によっては不良品も不良も同じ意味をで説明することもあります。いずれにしてもこれらは、廃却や手直しを必要とすることになりますから、大きな損失になります。
(2)不良品や不良は何故起きるか
不良品を減らしていくことは、監督者の仕事の重要な役割です。日常の仕事の中で、一番苦労していることではないかと思います。不良品を作るのは、見かけ上は作業者ですが、その真の原因は、別のところにある場合が多いものです。例えば、ナットのトルク不足の原因は、工具を使う隙間(場所)が狭く工具が正しく使えないなどの事例がありました。機械を使った加工不良でも、見かけは機械が不良品を作りますが、本当の原因は何かを追及する必要があります。例えば、切削油や加工プログラムに問題があるかも知れません。
(3)不良の原因の分析と対策
不良品が発生した場合、先ずその内容をデータで見える化することです。グラフやパレート図などQC7つ道具を活用して不良の状態や真の原因を掴むことが必要です。原因の追及には、なぜなぜを5回繰り返すことがポイントになります。問題の改善には、問題解決手順を活用してください。
8.4 設備や機械の稼働率の向上
自動化設備や機械類は、いろいろな原因による停止があります。稼働率向上は、職場にとって重要な課題です。
(1)機械の保全
現役時代、ある自動溶接組立機を使って、作業を行っていました。この溶接機は、調子が悪く、しばしば調節が必要でした。ある日、保全担当者が調整に手間取り、次工程に組立品が間に合わなくなりました。やがて組立ラインもストップしてしまいました。そのラインの担当工長が私のところに急いでやってきて、「何をやっているのか!調子の悪い機械をうまく使って作業するのがお前の仕事だぞ!」と怒鳴りました。私は「エ!」と絶句しました。いろいろ考えさせられたことでした。正常な稼働の信頼性の低い設備は、その対応として、調子のよいときに出来るだけ作り溜めをして防御することになってしまいます。
(2)チョコ停の改善
自動機や設備類では、運転時に部品の位置ずれ、搬送装置の停止位置ずれ、部品の引っ掛かり、治具内の部品セット位置ずれといった現象が起きることがあります。これは一例ですがこのような場合には、各種のセンサー類が正常に作動しなくなります。このような時、自動機はセンサーの信号を受信できるまで停止します。自動機の不具合を修正すれば直ちに運転開始しますが、このような短時間の停止が意外と少なくないものです。チョコ停は、短時間(例えば1分以内)の停止ですから停止時間記録には表せない問題です。このようなチョコ停の改善が稼働率の向上につながります。
(3)段取時間の短縮
ロット生産の場合は、治具や金型の交換を行う必要があります。ロット生産では、小ロット(1回のロット生産数量を少なくすること)生産は在庫を減らせるし、お客さまの求める納期を短縮できるなどのメリットがあります。しかし、ロット数を少なくして生産するとロット生産回数が増えることになります。一方、金型交換のような段取時間の間は生産がストップすることにますから、段取時間を短縮することが課題になります。段取作業の内容を分析して、作業手順、工具類、管型や治具の標準化(取り付け位置や金型寸法など)を図ることが必要になります。さらに、金型を使用していない(生産していない)時期に、出来るだけ段取り(外段取りという)を行うことです。機械に金型をセットする時の段取(内段取りという)はできるだけ少なくする工夫がポイントになります。
(4)予防保全
監督者は設備の調子や何かの異常を感じた場合、保全部署と連携を十分に取り、PM(Preventive Maintenance)に協力します。始業点検や日常の不具合状況を保全部署と共有することが、設備稼働率の向上に役立ちます。設備や機械の調子は作業者が一番よく知っていることですからその状況を記録し、提供することによって、設備の改良や製品品質の向上に活かしていくことができます。
(5)AIよる予兆保全
このところ、AIを使った予兆保全が行われています。予防保全は、作業者や保全担当者の点検などから補修や部品交換を行うのに対し、設備や機械の不具合をAIで判断して、故障の発生する前に補修や交換を行うものです。いろいろなセンサー類を活用して、得られたデータをAIが判定してくれます。これによって、ムダな不必要な保全コストを減らすことができます。
8.5 直接材料の節減
材料費の節減を図る場合、検討すべき項目はどんな材料(材料の種類、規格、仕様など)を使うか、その価格は(購入価格)はいくらか、どれくらい使用(使用量、消費量)するかです。
(1)材料の種類や規格の選定
これは設計部門の課題です。製品の品質(性能や機能、強度、耐久性など)を満足する材料の選定は重要な課題です。製品の製造コストの60%を材料費が占めているといわれるだけに、コストを意識した設計が求められます。VE(後述)では、材料変更が大きなコスト低減になってきます。
(2)材料購入
これは購買部門の課題です。材料価格は毎日変動しています。このような環境にあって、できるだけ低価格で取得すること、継続契約購入の場合の価格引き下げなどが課題になります。購買部門では、このほかに安定的な材料の取得も重要な問題です。災害時の購入先の確保や購入先企業の倒産などで材料取得がストップしないようにしていく取り組みも重要なことです。
(3)材料使用量の節減
材料節減には次のような項目を検討します。
@歩留まり率改善
直接材料は、その材料すべてが製品になるのが理想ですが、実際には加工上材料の一部を捨てざるを得ないことが発生します。例えば、機械加工での切り粉、プレス加工での抜き残材、冷間鍛造の端材などさまざまな加工上捨て去る材料が発生します。これを出来るだけ少なくすることが、材料費の低減になります。ざいりょうをどれだけ有効に利用したかを図る尺度として歩留まり率があります。
歩留まり率=製品重量/使用材料重量
この歩留まり率の改善(向上)が各企業の重要なコスト低減の取り組みになっています。
A不良品の低減
品質に関する項目のところでも述べていますが、不良品を減らすことはその材料費の低減になります。
B在庫削減による材料の損耗の防止
直接材料や間接材料の在庫は、在庫管理中の劣化、陳腐化、品質低下などによるロスが発生します。在庫管理や生産管理を行って、在庫を減らす取り組みは、材料ロスの防止になります。
8.6 VAとVE
監督者として、知っておきたいVEやVAについて述べておきます
(1)VA
コスト低減手法の一つにVA(価値分析:Value Analysis)があります。その製品や部品の機能(はたらき)とそのコストを検討して、より高い価値を見出していく手法といわれています。すなわち、求める機能を発揮する「よりコストの安い部品」を検討していくものです。VAのポイントは、使用材料の変更、加工工程の短縮、加工方法の変更()加工のスピードアップ)、材料の節減、部品どうしの一体化などです。このように、部品の機能、価値を見直してコストを削減していく手法によって大幅なコストダウンが可能になってきます。このVAの発想から、部品加工工法の技術開発がどんどん進んでいます。特に、プレス加工、冷間鍛造加工はこれからも注目していく必要があります。
(2)VE
設計段階におけるVE(Value Engineering)では、製品のコンセプト(Concept)の見直し、設計変更(部品点数削減など)設計標準化、部品の一体化などに取り組むことです。そもほか、他社や系列メーカーとの部品共用化などが行われています。さらに、設計段階でその製品の製造原価が決まるといわれていますから、設計部門だけではなく、設計時に製造、品質、購買、販売、サービス部門などが設計部門に協力していくことが求められます。このような取り組みが現在では一般的になってきています。この取り組みをサイマルエンジニアリング(SE::Simultaneous Engineering)と呼ばれています。
(3)機能の価値とは
VA活動でよく説明されている価値分析の計算式をあげておきます。
V(価値)=F(機能)÷C(コスト)
この式の意味は、同じ機能を発揮する材料や部品をより安くつくることによって価値が高くなるということです。この価値を高めることを「価値分析」と呼ぶようになったといわれています。設計段階でこの「機能」について分析してその「コスト」を検討することが設計技術者の基本的な仕事であると考えています。
9. 職場のムダを減らす活動
職場には、視点を変えるといろいろなムダあるといわれています。今までムダでなかったものが、時が経つとムダに変貌するのがものづくりでもあります。
9.1 ムダをなくする5S
職場のムダをなくする第一歩は、先ず5Sから実践していくことです。整理整頓のよい職場は、品質もよく、生産効率も高いといわれています。例えば、部品や工具類、運搬容器の乱雑な職場はムダが多いといえます。職場を観察していると忙しそうに作業者たちが行き来していますがその行動は、材料や部品、工具や道具などを探したり、移動することに時間を取られていました。このような職場はただ忙しいだけで、生産効率は上がりません。先ず、5Sを定着することから始めることです。
9.2 職場のムダの例
職場のムダとはどんなことなのかを知っておく必要があります。その一例を下記に示します。担当する職場のムダについて取り組んでいきたいものです。
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9.3 ムダの改善
職場のムダを改善していくためには、先ずその原因や理由を調べることが必要です。何故それが起きているのか、良く掴みその対策を考えていきます。例えば、「作業者の歩行」が起きるのは、「部品が遠くにあるからである」とすると、近くに置くことにすればよい。しかし、そのためには、その部品の置き場所があるかどうかです。もしその部品を置けない場合には、どうするかを考えていきます。部品を立体的に置けないか、それぞれの部品の容器を工夫するとか、容器に入っている部品数を減らして、容器を小さくすれば、置き場所が確保できないか、など様々なアイデアが出てくると思います。職場のメンバーと一緒になって改善策を考えてみてはいかがでしょうか?
9.3 電力費の節約
職場でできるコスト低減の中で、電気のムダはなくせる取り組みの一つです。この場合、職場単位や機械毎に消費する電力量がわかるメーターをつけておくことが必要になります。特に、大きな消費電力を必要とする機器には、電力計器をつけてムダをなくする取り組みを行ないます。電気関係の技術者の協力を得ながら消費量の多い機器からムダな電気の使い方や異常な音、熱、振動の発生がないかとか、使用していないときの消費電力の有無など点検しながら、電力のムダがないか調査と検討をしていきます。また、専門的になりますが、電力のピーク負荷(電気の使用量が最大になる時間)を減らす工夫も電力費の大きな削減効果があります。
9.4 水、圧縮空気
職場では、エネルギーの節約を考えます。ムダの例にもあるように、出しっ放しや流しっ放しにならないように対策を取ります。各種のセンサー類の活用や自動バルブ開閉などに取り組みます。さらに、設備や機械の空運転は最小限にしていくようにします。設備や機械に使用する冷却水、油脂類などは、循環使用や回収して再利用するなどが良く取れれたいます。
職場のいろいろなムダは、何故起こっているかをよく把握して、改善を図ることが大切です。特にエネルギーは、効果的な使い方を考えていくことです。
今まで述べてきた原価計算のやり方を使って、自分の職場の作業コストを算出してみてください。
10.1 作業コストとは
作業コストとは、その作業にかかるすべてのコストですが、監督者としては、製造原価の範囲で算出して見ることです。製造原価の構成にしたがって費目別に計算していきます。この算出を通じて、コストの意味がよく理解できると思います。
10.2 原価意識を持つ
監督者として、部下にも原価意識を持たせるようにしていく必要があります。この意識が高まると、職場のいろいろなムダに目が届くようになっていきます。作業者からの提案も増えてくるはずです。
10.3 作業コスト計算の始まり
生産技術担当の現役時代に現場の作業コストを算出した資料をまとめたことがあります。その時作成した資料を図を示します。
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これは、1cmの溶接コストはいくらかかるか、1cmのシ−リングはいくらになるのか、1本のボルトを組み付けるコストはいくらになるのか(この場合ボルトの単価は含まない)というように原単位コストを算出したものです。
設備故障の手待ちの合間などの時間を使って自分のテーマとして取り組んだものでした。発端は、従業員の改善提案の効果額を査定するために始めたものでもありました。このデータをまとめるにあたって、作業毎の面積原単位、必要な動力原単位などさまざま「原単位」を調査してまとめるという作業も必要になりました。ここで検討した原単位データは、その後の現場のコストダウンに大きく役立つことになりました。
(注)原単位とは
製品単位(1個)あたり、作業単位(1回、1個、1センチなど)、材料では、1グラム、1m3などというように最小の単位あたりのデータのことをいいます。数量、重さ、長さ、容積などの単位で示します。これに価格を入れると金額で表示できます。例えばある工場のアーク溶接1cmコストは、0.7円というように計算します。
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