作業に関する知識 |
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目 次 |
1.就業時間に関する基本的知識
1.1現場の作業とは
1.2 総実働時間
1.3 直接時間(直接作業時間)
1.4 主体作業と付随作業
1.5 間接時間
1.6 チョコ停
2.作業環境と作業条件
2.1 温湿度
2.2 騒音
2.3 振動
2.4 高熱
2.5 重量物の取り扱い
2.6 悪臭
2.7 その他の限度を超える作業環境
3.作業の標準時間
3.1 標準時間とは
3.2 作業の習熟
3.3 作業動作と時間の研究
3.4 標準時間の設定条件
3.5 余裕時間
3.6 標準時間の設定方法の概要
3.7 標準時間の活用
4.作業習熟の促進
4.1 熟練工とは
4.2 作業の習熟率
5.標準作業
5.1 標準作業とは
5.2 標準作業書作成のポイント
5.3 標準作業の設定の方法
5.4 標準作業書の改訂
6.作業改善
6.1 歩行の削減又は減少
6.2 工具類の取り置き
6.3 完成品や仕掛品の置き場所
6.4 レイアウトの変更
6.5 作業の中断や変更
1.就業時間に関する基本的知識
職場でのいろいろな「作業」について、監督者として基本的な知識を整理しておきたいと思います。先ずは、「作業時間」に関する知識を確認しておきます。
1.1 現場の作業とは
職場のものづくり作業の内容は生産する製品によって、さまざまです。職場の数だけあるといっても過言ではありません。重要なことは、その職場は唯一の職場であり、他にに同じ職場はないということです。さらに作業は、いろいろな技術と技能が活用されていることです。例えば、ボルトナットによる組立、各種の溶接組立、プレス加工、鍛造、鋳造、接着、塗装、表面処理などさまざまな作業があります。このようなその企業の固有の技術は、ここでは述べることはしていませんが、作業は技術といっしょに組み合わされているということです。例えば、アーク溶接作業は、溶接の技術的な知識がないと作業はうまく(品質を確保すること)いきません。監督者はもちろん作業者も基礎的な技術知識を持つ必要があります。
1.2 総実働時間
企業は就業規則などで作業の開始時間や終業時間など定めています。したがって、その内容を監督者としてよく理解しておくと共に、部下に周知しておかなくてはなりません。
次の例は、一般的な作業時間の取り扱いの事例です。一日の労働時間の内、昼食時間を除く8時間が総実働時間としています。また、朝礼やコーヒータイム、終礼などは、各企業でその時間の長さや取り扱いがさまざまですので、自社の就業規則をしっかり理解しておく必要があります。
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1.3 直接時間(直接作業時間)
材料の加工や組立作業を行なっている時、機械の故障や部品手待ち、前工程の作業遅れなどで作業が出来ない時間が発生します。このような時間を「間接時間」と呼び、その時間を記録する必要があります。ある作業に従事している時の直接時間は
就業時間ー間接時間=直接時間
で算出されます。なお、朝礼や清掃など職場全体で従事する時間は「職場余裕時間」として取り扱うこともあります。詳細は企業ににより規定されています。ここで、重要な数値は直接率です。
直接率(%)=直接時間/就業時間×100
で表します。この直接率を上げることが改善になります。なお、設備稼働率も同様な計算になります。
稼働率(%)
=(操業時間ー設備停止時間)/操業時間×100
=(1ー設備停止時間)/操業時間×100
ここで操業時間とは、設備を運転(使用)していた時間数のことです。運転開始(作業開始)から運転終了(作業終了)までの時間数です。
1.4 主体作業と付随作業
作業の内容を分析すると、本来の仕事である「主体作業」とそれに付随して発生する「付随作業」に分類できます。次の表は簡単な組み付け作業の例です。
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この例では主体作業の比率は、標準時間比で算出すると、0.18分/0.45分で40%になります。一般的に、主体作業の比率は20%〜30%程度で、付随作業が過半数を占めていることが多いものです。付随作業は、主体作業のために発生するものといえますが、主体作業は出来るだけ時間を短縮すること、付随作業はそれを減らしていくことが作業改善です。先ずは、付随作業の改善を狙っていきます。
1.5 間接時間
作業中の間接時間の大半は、いろいろな手待ち時間です。前工程の作業遅れ、部品待ち、設備や機械の故障、不良の発生による作業停止などが代表的な間接時間です。このような手待ち時間は、何も生み出さない空の作業時間ですから、改善しなければなりません。これらの改善を図る手法が、生産管理や品質管理、在庫管理などの管理技術です。管理技術については、別項でくわしく述べてあります。
1.6 チョコ停
機械や設備の短時間停止(チョコ停という)や短時間の部品待ち、作業遅れなどは、「作業余裕時間」として間接時間に計上しないのが一般的です。短時間とは、例えば1分未満をいう(ただし、社内規定による)。ただ、チョコ停などが頻繁に発生する場合は、別にその時間や原因などを記録しておき、改善すべきデータとして活用するようにします。このような作業に関する間接時間の取り扱いは、企業で「時間記録規則」として定める必要があります。
2.作業環境と作業条件
作業を行う場合、いろいろな作業環境が問題になります。作業者に悪影響を及ぼす作業環境は改善しなければなりません。このような作業に影響を及ぼす環境の職場には、標準時間の設定時に、必要な余裕時間を付加します。
2.1 温湿度
製品の精度に影響を及ぼすものに、室温(温湿度)があります。特に検査などの測定室は、精度確保のため一定の温湿度を維持するようにしています。空調を行うことが必要な精密製品は、温湿度管理が重要です。一般の職場でも、夏場の湿度が高いと作業効率にも影響を与えますから、可能な対策を取らなければなりません。例えば、工場内の風通しを良くする、冷風送付装置、冷風服などがあります。
2.2 騒音
鍛造工場、プレス工場やコンベヤーの走行音など工場にはそれぞれ機械音などの騒音が発生しています。一定の騒音レベルには、防音装置を追加するるなどの対策が必要です。一定の騒音の発生する作業には、耳栓をするなどの対策を行います。工場外に漏れる騒音は、公害にもなりますから、遮音対策を取るなど騒音レベルを抑える工夫が必要になります。
2.3 振動
機械類から発生する振動は、機械の精度にも影響しますから防振装置を取り付けます。加工や組立作業時に振動があると精度に影響しますから、その対策が必要です。その他、振動は、ボルトナットのゆるみの原因や機械類の疲労破壊の要因にもなってきますから、専門技術者と協議して対策を取ることです。
2.4 高熱
熱間鍛造、注湯作業、塗装焼き付けなど高熱を使用する職場には、耐熱服、空調服(冷風服)、冷風の送付などの対応を行います。場合によっては、エヤコン設備を設置します。さらに、このような高温高熱作業は、危険ですから安全対策も十分行なわなければなりません。
2.5 重量物の取り扱い
一定の重量を有する材料、部品を扱う場合、落下の危険がありますから、その安全処置を取らなければなりません。また、天井などに配置されている作業者の使用する機器、器具、工具などはその落下防止のために、二重の落下防止策や作業者には、ヘルメットや安全靴を用意します。なお、一定の重量のある材料や部品を作業者が取り扱う場合、作業者の制限や、補助具などの使用が必要です。
2.6 異臭
薬品、塗料、汚染物などから限度を超える異臭が発生する場合、その対策を行います。室内の場合は、強制排気や換気が重要です。その他作業者にはマスクを使用させる必要があります。なお、薬品等が作業者に付着する恐れのある作業は、保護具の着用など安全処置を講じます。なお、事務所、工場内は一定の換気率(外気の取り入れ)が定められています。
2.7 その他の限度を超える作業環境
作業者の人体に悪影響を与える作業環境には、監督者として注意を払い、必要な改善策や作業者の保護対策を取らなければなりません。一般的に、経営者の中には、このような対策には無頓着や、経費を払わないケースが少なくないので、監督者の役割が大切になってきます。
3.作業の標準時間
作業の標準時間について、考えてみます。標準時間の設定は、大変重要ですからそのいろいろな手法がありますから理解を深めてください。
3.1 標準時間とは
標準時間は、作業指図書などの作業標準書に基づき設定することになります。作業標準書の作業手順と作業条件などを参照しながら時間設定を行います。標準時間は、熟練作業者が通常の努力で作業をなし得る時間とされています。未熟練作業者や初心者は、この時間では作業は達成できない時間でもありますから、初心者ができない時間は間違っているというような誤解は避けなければなりません。初めての作業は一般的に2〜3倍、作業によってはさらに数倍の時間を要することになりるのが通常です。作業を繰り返し行えば、徐々に標準時間で作業できるようになります。これを作業に熟練するということになります。
3.2 作業の習熟
初心者が最初から熟練作業者並のすなわち一人前の扱いをして作業配置や生産実績を期待してはいけないといえます。監督者として知っておく必要なのは、作業の習熟に関する知識です。よく知られているように、繰り返して作業を行なうことにより「作業の習熟」が進んでいくことです。すなわち、上に述べたように標準時間に近づいていくことです。やがて、標準時間で作業ができるようになると、その作業者は熟練作業者ということになります。このような指導が監督者の役割です。なお「作業の習熟」は別項で述べることにします。
3.3 作業動作と時間の研究
(1)科学的管理法.
作業の動作研究について概要を知っておきましょう。その発端となった科学的管理法がよく知られています。「科学的管理法(The Principles of Scientific Management 1911刊)」は、フレデリック W. テイラー(1856-1915)の著書です。この科学的管理法は「三方よし」の恩恵をもたらすものであるといっています。
「三方よし」はよく知られた近江商人の商売の哲学として有名です。これは私の好きな言葉で、仕事の理念でもあります。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」は、現在でも大切なことです。テイラーもその著書の中で、これと同じような考えであることが説明されています。すなわち、「科学的管理法は、従業員、企業、国や世間の人たちに恩恵をもたらす」ものであると述べています。科学的管理法の採用によって、
@働き手の生産高が上がり、賃金を増やして本人の夢を実現することができる
A雇用主は、競争力も高まり、市場の拡大につながり、利益が右肩上がりとなる
B企業を取り巻く人々や世の中全体が大きな恩恵を受け豊かになっていく
今からおよそ100年前に、当時は成り行きで仕事をしていた労動者の作業方法に着目して、生産性を高める手法を研究して実践してきたテイラーの科学的管理法は、今でも大変貴重な教えであると思っています。そして、当時の労動者の賃金を増やし、地位を高め、豊かな生活が送れるように押し上げたものは、科学的管理法の手法が大きく寄与したと私は思っています。
(2)「作業時間」と「作業動作」の研究 テイラーは労動者の仕事を目に見えるようにするため、作業の「時間研究」に取り組みました。ストップウオッチを片手に作業の時間測定とその時間短縮方法を研究したのです。作業時間と作業動作は表裏一体の関係にあるので「時間を短縮」するためには、「動作の改善」が欠かせなませんが、テイラーは同時に作業に使う道具の研究や作業者の訓練や指導にも着目しました。
一方、「作業動作」に関心を持ったのはギルブレス(Frank B. Gilbreth 1868-1924)でした。テイラーの科学的管理法の原則に関心を持ったギルブレスは、レンガ積みに応用しようと思い立ったということです。かってレンガ積みの作業経験のあるギルブレスは、レンガ積み作業を分析して動作の改善に取り組みました。そして、その成果を「科学的動作研究」と名付けた。(前掲「新訳科学的管理法」有賀祐子訳ダイヤモンド社刊)
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(3) シャベルの研究
テイラーが働いていた当時のベスレヘムスチール社では、大勢の労働者が鉱石などを貨車からシャベル(Shovel:ショベルともいう:)を使って積み降ろしをしていました。この作業の生産性を上げるには、どうすればよいか、テイラーはシャベル作業の研究を行いました。その結果、シャベルにおよそ21ポンド(約10kg、日本人にとっては少し重すぎると思います)をすくうのが一日の出来高が最大(59トン)となることが分かったということです。さらに、作業の動作時間を測定して標準的な1日の作業量を決定しました。これをタスク(Task:課業と訳されています)と呼んで、これを管理することにしました。もちろん、テイラーは労動者が過重労働にならないよう検討し、必要な休息時間を設けるなど配慮したことはいうまでもありません。
テイラーは、シャベル作業の内容(鉱石、ズク:銑鉄、石炭など)に応じて、シャベルの形状や大きさを工夫して、タスクが達成できるようにいろいろなシャベルを準備もしました。シャベル作業の標準化や使用する道具も工夫して生産性の向上に努めました。
(4)作業の標準時間の設定
当時のテイラーは、作業時間をストップウオッチで測定しました。作業者には一流の工員(熟練工)を選び、その作業を分析してムダな作業を改善し、新しい作業方法を工夫などして標準的な作業方法を設定しました。この作業方法に基づき作業時間を測定して、「標準作業時間」を設定していきました。これにより、必要な従業員数、作業計画や日程計画など計算ができるようになりました。それぞれの作業の標準作業時間の設定によって、企業の生産計画できるようになり、このような作業現場の科学的管理手法が「生産管理」として確立されて行ったということです。
ストップウオッチによる時間測定は現在でも行なわれていますが、いろいろな弊害や正確性などから問題が生じやすい手法です。標準作業が確立された作業は、現在では「既定時間設定法」(Predetermined
Time Standard System:PTS)による時間設定法が使われています。標準時間の設定は、生産管理では必須の仕事ですが、PTS法によるよる時間設定は、専門的な知識が必要になってきます。専門書もありますので、一読してみてください。
(5)作業動作に注目したギルブレス
ギルブレスによるレンガ職人の動作分析とその改善によって、時間当たりのレンガ積み個数を3倍にしました。ここでは具体的な内容は省略しますが、大変興味のあるのは次の点です。それはレンガ積み職人の動作を分析した結果、改善した新しい作業方法を実施するために、賃金の安い別の職工達の協力を得るように工夫したことです。
@モルタル工は、レンガ積みに最適な粘度のモルタルを作り供給する。
Aレンガ運搬工は、レンガを運搬選別し、レンガ職人が取りやすいように並べる。
B足場工は、レンガ積み作業が楽に出来るように足場を調節し、組立と移動をしていく。
Cマネージャー(現場の監督者)は、それぞれの作業者の適性をよく知り、仕事を与え、支援するほか、必要な訓練を行い、より高い技能を見につけさせていくようにしました。これは、現在の監督者に相当するといえます。
このようにして、一人のレンガ職人の動作を分析改善することにより、レンガ積み個数が大きく増加させる成果を上げました。さらに、関連するまわりの人たちと協力(専門的な作業を分担することにより)するということでした。今でいう作業の分担です。このように作業の分析を行い改善することにより、作業の効率を高め、生産性をあげることにつながっていきました。
3.4 標準時間の設定条件
部品加工や製品の組立作業など、定められた標準作業を熟練作業者が行なうに必要とする作業時間を標準時間(Standard Time)としています。標準時間の設定は、正味作業時間と余裕時間に分けて行ないます。さらに、正味作業時間の設定に当たっては、それぞれの作業を要素作業に細分化して、その所要時間を測定又は時間基表(タイムテーブル)から求めるようになっています。要素作業では、その作業を制約する条件を明確にする必要があります。例えば、移動する距離、重さ、大きさ、置き場所などの高さ、掴みにくさ、危険性(鋭利な物)などがあげられます。このような制約条件がある作業の場合は、それにかかる(必要とする)時間を付加することになります。
3.5 余裕時間
一日の作業時間の中には、作業を行なうことのできないいろいろな事態が発生します。このため、標準時間に次のような余裕時間を付加することになっています。
(1)作業余裕
作業中に作業を止めて行なう給油、点検、治具などの小修理や調整、材料や部品の不良品の除外、ネジ類の落下、加工品などの測定検査、保護具の交換、作業場や作業台上の汚れの拭き取りなど、さまざまな短時間の停止が不規則に発生するので、これらを「作業余裕時間」として取り扱うことにします。なお、定期的な点検修理や長時間の停止はそれぞれ「間接時間」として取り扱うことになっています。
(2)疲労余裕
作業場の環境により生ずる、高温や低温、高湿度、高熱、粉じん、騒音、照明、緊張(注意力)などの要因によって、作業速度の遅れや一時的な停止、短時間の休息を要する場合などに、これらを疲労余裕として時間を付加することなっています。
(3)用達余裕
作業中の汗拭き、水飲み、用達しなど生理的な要因で作業中断が起きるので、これを用達余裕として付加するものです。
(4)職場余裕
前後の作業工程の遅れによる手待ち、部品や材料の欠品、作業不良発生などによる短時間のやむを得ない作業停止が生じることがあるので、これを職場余裕として付加します。なお、長時間のライン停止や設備機械の故障、各種の手待ちは「間接時間」として取り扱うのが一般的ですが、これも企業で具体的に取り扱いを規定します。
(5)余裕率
いろいろな余裕時間は正味作業時間に付加していくものですが、その方法として余裕率を設定しています。余裕率は企業により定めるものですが、一般的には20%〜25%としている場合が多いようです。したがって、ある作業の正味作業時間が10分であれば、余裕時間は2分(余裕率20%の場合)となり、標準時間は12分ということになります。
3.6 標準時間の設定方法の概要
標準時間の設定方法にはいろいろな手法が考えられています。どのような方法で標準時間を設定するかは、各企業で具体的に規定しなければなりません。
(1)実績時間法
過去の同類の作業の実績時間を参考にして、標準時間を設定する方法です。繰り返して行なうことが少ない作業、精度が低くてもよい作業、標準化ができない作業のような場合などに適用されます。
(2)ストップウオッチ法
作業者が行なう作業を直接(又はビデオ撮影した作業を)観測しながら、ストップウオッチ時計で作業時間を計測する方法です。この場合、作業者の熟練度や作業スピード(故意に作業を遅らせるケースや作業者により作業の速度に差異が見られる)などから、測定時間に大きな差異が生じてきます。したがって、熟練作業者が行なうレベルに補正する必要があります。これをレイティング(Rating:平準化)といいます。レイティングは専門的な技法が必要になるので、ある程度の訓練を要します。
(3)既定時間標準法
この手法は、PTS(Predetermined Time Standard:ピイティエスと読む)法と呼ばれているもので、日本語では既定動作時間標準法ともいいます。この設定方法は、一つの標準作業を「要素作業」にさらにそれを「基本動作」レベルに細分化して、その動作に応じて別に定められた時間値を適用して、標準時間を設定していくものです。基本動作は1万分の1分単位で設定することになっています。また動作の制約条件には、身体のどの部位(指、腕、胴体など)を使うかで時間値も変わってきます。
次にその概要の一例を示します。
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PTS法にはいくつかの手法がありますが、主にMTM(Method Time Measurement:エム ティ エムと読む)法とWF(Work Factor:ワークファクター又はダブリュエフと読む)法が使われています。これらの手法は専門的になるので、興味のある方は講習会や専門書で勉強することをすすめします。
標準時間の設定は上記の要素作業毎にタイムテーブル(作業動作毎の時間設定表、又は時間基表ともいう)を作っておくと時間設定作業が非常に楽になります。各企業の職場の作業の内容に応じて標準時間設定用のタイムテーブルを使用して、標準時間を設定しその活用を図りたいものです。
3.7 標準時間の活用
標準時間の設定ができれば、この時間を用いていろいろな計算ができます。その一例を示します。
(1)所要人員の算出
.工場全体や職場の所要人員の算出ができます。生産数量、出勤率、設備の稼働率などのデータを使用して算出することになります。計算式は別項で説明してあります。
(2)仕事の成果や評価尺度
.生産性(能率など)の尺度として活用することができます。さらに、多種多様な製品でも出来高時間を計算して全体の生産性比較ができます。
(3).熟練度や訓練計画
作業者の熟練度の把握や作業者の訓練に活用できます。実際の作業時間と標準時間との比較で熟練度の目安ができます。習熟度の低い作業者に対する教育訓練に役立てることができます。
(<活用事例> 作業の熟練度
作業の熟練度は、下記の式で算出します。
熟練度(%)
=(標準時間÷作業者の作業時間)×100
但し、作業者の作業時間は、
=作業の測定時間+(測定時間×余裕率)
(4).作業改善の成果測定
ムダな作業の改善、作業の時間の短縮効果が算出できます。作業改善による効果の測定や作業のムダの削減時間などが具体的な数字で把握ができます。
(5).業績評価
仕事の成果や業績評価が客観的でき、昇級や賃金などに反映できます。異なる作業の生産性や習熟度などを算出することで、他の作業との比較ができるようになります。
4.作業習熟の促進
すでに述べたように、作業の習熟につては一般によく知られています。繰り返して同じ作業を行っているとだんだんその作業に慣れて、早く楽に作業ができるようになります。これが作業の習熟です。できるだけ早くその作業に習熟させることが監督者の役割の一つといえます。
4.1 熟練工とは
熟練作業者又は熟練工という言葉があります。これは、何を表す言葉でしょうか?作業の熟練は「その作業を体で覚えさせる」ことであると思っています。頭で考えながら作業は行うものですが、それを体に覚えさせることができれば、一人前の熟練作業者といえると思います。これは、野球や相撲などのスポーツでも同じことがいえるのではないかと思います。監督者は、この習熟がより早く進められように、作業者に対する支援や指導を行わなくてはなりません。
4.2 作業の習熟率
最初にも書いたように、同じ作業を繰り返して行っていると、だんさんその作業に慣れて、早く楽に作業ができるようになります。これを作業の習熟といいます。これは単に現場の作業だけではなく、事務作業などあらゆる繰り返して行うものには習熟が見られます。複雑な作業(仕事)ほど習熟に時間がかかることは、一般によく知られています。ものづくり作業の課題は職場の各作業の習熟率を把握しておく必要があるということです。習熟率とは、作業者がどのくらい生産数をこなせれば(経験すれば)、一人前すなわち標準時間で作業できるようになるかということです。
次の図は、一般的な作業者の習熟について、累計生産数(作業を開始してからの数量)との関係を図示したもので、習熟曲線と呼ばれています。
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目盛りは対数であり、対数グラフに記載することで表しています。X軸は累計生産数量、Y軸は一個当たり工数で示すものです。
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次の図はある作業者自身の習熟曲線を示すものです。一定の生産数をこなすと標準時間に近づくことになります。この時の累計生産数Xがいくらになるかを知っておくことが監督者は必要になります。
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次の図は、自動化ラインの習熟曲線の例を示しています。生産開始初期には高い工数がかかっています。この工数は、生産作業者だけはなく、設備補修担当作業者の工数も含めて示します。初期段階では、設備のトラブルが発生して、生産数がなかなか上がらないことを表わしています。
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なお、作業者が配置される半自動化ラインでも同様ですが、この場合も作業者の工数を加えた総工数とします。従って、作業者の習熟が含まれる習熟曲線となります。
<注>(台当たり)工数とは
上記で記載している工数の算出は、次の式で示す。
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全自動設備の場合は、工数=0となれば、これはマシンサイクルに近づいていくことになります。
次の図は、ある組立作業の実際に記録した習熟曲線です。
<参考> 組立工場の新製品立ち上げ ![]() |
5.標準作業
監督者として、必ず行わなければならないのは、作業の標準化です。作業者による自由な方法での作業は、避けなければなりません。しかし、現実的には、作業者によって微妙に作業方法が異なっていることは、よく知られていることです。
5.1 標準作業とは
職場の監督者は、作業の標準化を図り、「〇〇作業指図書」などを作成する必要があります。加工や組立の作業の内容は技術部署からQC工程表や作業手順書、作業工程表など事前に必要な作業工程の明示があります。しかし、実際に作業を指示する監督者は、より具体的な作業方法を検討して「標準作業」を設定することが大切です。
次にQC工程表の例を示す。
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次図は、作業指図書の例を示す。大きさはA3サイズとして、職場に掲示できるようにする。作業上記載に必要な事項は適宜帳票設計します。(例:検査規格、測定方法など記載できるようにするなど)
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次に、この標準作業書にもとづき、標準時間が設定されることになります。標準時間についての詳細は、別項「標準時間の設定」で詳しくのべることにします。
<標準作業の求められる条件>
@安全な作業方法であること
A定められた品質を確保できること
B機械、工具、治具などの損傷をさせない方法であること、 C付随作業や歩行、運搬などの動作を少なくすること
D作業時間ができるだけ短い方法であること
Eその他その作業の重要な事項など
5.2 標準作業書作成のポイント
標準作業書の作成に当たって、重要なポイントは次の通りです。
@作業の安全を十分確保できるように注意書きすること
A作業の内容は文章ではなく、絵図を書くこと
B作業の手順が明確で分かりやすいこと
C品質を確保できる具体的な作業方法であること
D作業の急所を明示すること
E異常が生じた時の処置、報告などを明示すること
F作業に要求される公的資格、免許、社内資格などを明示
G保護具や工具、測定具など明確にすること
H改善等で変更が生じた時は、すぐに改訂すること
I職場に掲示して周知させること
5.3 標準作業の設定の方法
標準作業の決め方は、次のような順序で進める。
@現状の作業を分析する
監督者自ら作業をやってみて、作業の手順やムダな作業、ムリな作業など問題が無いか作業を分析する。
A最良の作業方法を決める
作業の問題点を改善して、最も合理的な最善の作業方法を決定する。
B新作業の確認
自ら新しい作業を実際にやってみる。さらに、問題があれば改善する。次に作業者にもやらせてみて、問題が無いことを確認する。
C標準作業書に記載してまとめる
作成のポイントは上記の通り。
D標準作業書の説明と掲示
職場の掲示版等に標準作業書を掲示するなどして、職場の作業者に周知させる。
E標準作業書の改訂
設計変更や材料部品等変更などで、作業方法を変更しなければならない場合、そのほか、品質不良の発生や提案などにより、作業を変更する場合、標準作業書を改訂しなければなりません。一般の企業でもこの改訂がされていないことが少なくありません
5.4 標準作業書の改訂
標準作業書(以下作業書という)は先ず作成することが第一歩ですが、それをきちんと実施していくこと、そしてそれを改善していくことが重要になります。作業の改善が行われると作業書を直ちに改訂しなければなりません。中小企業の工場を視察した折、改訂の行われていない作業書を見るとこの工場は改善活動がどうなっているか心配にもなりました。
(1)設計変更による改訂
製品はしばしばクレーム対応や性能向上などで設計変更が行われます。当然作業が変更になれば作業書も改訂します。工程の変更や部品の変更などいろいろな変更があります。
(2)工程の改善による改訂
作業効率改善や品質改善などで工程の変更が行われます。レイアウト変更や部品配置の変更、組立方法の変更なども含まれます。このような工程の改善は、技術的な改善や現場の改善などによるものです。
(3)作業改善による改訂
職場のいろいろな改善や工程の変更が行われると作業書も改訂をしなければなりません。作業方法の改善、治具工具の変更や改善、部品レイアウト変更なども同様です。作業改善には作業時間短縮や部品変更なども含まれます。
(4)品質改善による改訂
職場では、品質の向上、不良防止、などいろいろな問題解決による改善が行われています。改善の大半は品質に関する問題解決が多いと思っています。品質改善には、設備や機械の改善、組立治具や工具の改善、検査作業の改善などがよく行われています。これに伴う作業書の変更が必要になります。
(5)作業編成その他の変更により改定
生産量の増減による作業編成の変更、設備と作業者の組み合わせの変更、その他安全確保のための作業方法変更、保護具の変更などその都度改訂することが必要です。このような変更の改訂は、大変めんどうなことなので、そのままになっていることが多いものです。問題が起きてからこのことが指摘されるというケースも少なくありません。
(6)作業書変更の徹底
職場の朝礼や会合を通じて作業書の変更内容を説明し、徹底を図ります。さらに、掲示板に掲載していつでも作業者が確認できるようにしておきます。この場合、変更理由や目的なども説明して、部下との情報の共有を図るようにします。
6.作業改善
作業改善には、作業時間短縮と品質向上に関する改善がほとんどです。職場の提案やQCサークル活動などの改善提案なども取り入れます。以下は、一般的な改善の目のつけどころを示したものです。
6.1 歩行の削減又は減少
作業の中で材料や部品を取るために歩行しなければなりません。歩行は何も生み出しませんから、なるべく歩行は減らすことです。そのためには、作業に使う材料や部品などは、作業者のそばに置くことです。でもこれを実行するためには、部品の置く場所、容器、荷姿などの改善が必要になります。限られた置場の面積、容器類の大きさ、材料や部品の大きさや使用する量などさまざまな制約があるからです。通常の歩行は、一歩あたり0.01分の時間を標準時間とした場合、往復6歩の削減は、0.06分(3.6秒)の節減になります。
6.2 工具類の取り置き
工具類もなるべく作業場の近くに置くことですが、その場所が取れない場合は、よく天井(作業場の上)が使われています。取りやすく吊るすことですが、バランサーを上手に生かして取り置きをしやすくします。
6.3 完成品や仕掛品の置き場所
作業の終わった製品を次工程に送る場合、その部品の置き方や置く場所も意外と工夫を必要とします。乱雑になっては、次工程の作業者が困ります。次工程への送る方法もシユーターやローラーコンベヤーなど検討します。材料や部品の次工程への運搬は、改善の多い項目の一つです。工程間の仕掛品の数量をいくらに設定するかは、重要な検討項目です。この場合、0個が理想ですが、工程間の生産リードタイムなどから何個にするか決めます。
6.4 レイアウトの変更
作業者の歩行の短縮や部品類の取り扱いなどの改善を狙った手法としてレイアウトの変更がよく行われます。
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(1)直線ライン型
量産品で部品点数が多く、作業者を大勢配置する必要がある場合に用いられるライン形式です。特に、組付け部品点数が多くなるとラインの両側に作業者や部品の置き場所を配置出来るという利点があります。部品は通路側から供給するようにします。
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(2)L型ライン
部品点数が少ない場合、L型に作業台やコンベヤーを配置したレイアウトです。職場の面積の制約や作業者が多くない場合に採用されます。組付け部品は、作業者の背後に準備することになります。職場の面積を有効に活用するというメリットがあります。
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(3)U型ライン
部品投入口と製品の取り出し口が同じところになるように、U型に配置したラインです。このレイアウトでは、作業者を内側に配置して、作業者が機械の掛け持ち(複数台数)を行うときによく採用されています。組立作業の場合、部品は小物の時は、作業台の全面上部に配置するケースもあります。
なお、組立作業で、部品点数が多い場合は作業者は外側に配置して、作業者の背後に部品配置する場合もあります。
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(4)屋台型
この型は、「一個つくり」型」とも呼ばれており、作業者が製品を一人で全工程を組立てるものです。作業者の技能が高く、熟練しないと採用は出来ないと考えられます。製品の出来栄え(品質責任)が明確になるので、作業者の品質意識が重要です。
(4)ループ型
多種量産製品の場合、車種の異なる治具(同一治具でも可)を複数配置して、コンベヤーで回転移動させながら製品組立てを行うものです。
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図は、作業者のほかにロボットを採用したラインになっていますが、作業者でも同じです。組立治具を使用する混流生産の場合に採用されるています。
6.5 作業の中断や変更
突発的な故障、組立治具の折損、部品精度不良などでやむを得ない作業の中断が起こります。この場合、注意しなければならないことがあります。
(1)作業途中での中断
作業者が作業途中で中断することは原則禁止ですが、やむなく中断した場合は、中断したことを表示(標識など)するようにします。作業が完了(製品完成)又は終了(以後作業はしない)した時と区別するようにします。再開する場合に作業途中のであることを他の者にわからせる必要があるからです。作業者の交代や交代勤務で他勤務の作業者が継続して作業を開始する場合に問題を防ぐためです。
(2)設備故障による中断
設備の操業中に故障や材料手待ちなどで停止した場合、長時間停止するような時には、安全上からその旨の標識をする必要があります。また、異常停止後再開する場合は、その設備の取り扱い説明書に基づき、「再開時の操作マニュアル」を作成しておきます。設備は「原点復帰」再開が原則です。原点までは手動操作して、機械の異常の有無や保全作業者等の安全を確認するためです。この場合、熟練した作業者が行わないと設備等を異常操作で損傷させることがあるので注意します。
(3)変化点管理
作業中断後再開する場合、設備の調整や治具の調整、交換などを行った場合は、開始する製品のロット番号、製品の初物番号(記号)などを記録するとともに、必要に応じて、次工程に工程変更を通知することが必要です。下流工程への影響を確認するためです。なお、その他、設計変更による製品の部品変更や組立構成部品廃止や追加などの変更も同じように次工程に通知するようにしなければなりません。このような変化点管理は大変重要な取り組みです。
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